『不壊』

カツッッ!!

高いヒールの音が鳴り響く

何故なら今は周りがシンッと静まり返っている・・・丑三つ時だから

案の定、真夜中だと言うのに、遠慮の「え」の字も感じさせず大きな音を立てて開くドア

外から吹き込む冷たい空気に、ベッドの中で布団を引き上げ隙間を埋める

冷気と共に吹き込んだ馴染みある仕事仲間の香り

『やっぱり・・・・』

最初から予想していたが、布団を体に巻きつけたままひょいと玄関を見ると

小柄な身体のハズなのに、妙に大きく見えるのはその態度のせいなのか、仁王立ちの彼女

「・・・めぐみさん、今は真夜中ですよ〜〜??」

少し控え目に抗議するも彼女からの返答はない

俯いている彼女からは表情は読み取れない、が何やら、不穏なオーラを身にまとっている

「どどど、どーしたんですか???」

いつも饒舌な彼女の沈黙と沸々と湧き上がる不穏なオーラに思わず声が上ずる

顔を上げた彼女の目は若干思いつめたような色を見せ、口を開く

「クモ。。。頼みがある。2〜3発・・・殴ってくれ!!」

『何言い出すんだ、この人は・・・この真夜中に。青春ドラマ並みだよぉ〜』

呆けた様に固まる自分に、彼女は苦悩の浮かんだ瞳を投げかける

「えっと、ボクがめぐみさんを  殴る??」

「そーだよっ!いいから、なんも考えずに2〜3発!なっ、どこでもいいからさっっ!」


有無を言わせない、いつもながらのエネルギー。ボクは毎回毎回、流されてしまう



ペチン・・・

彼女が何をしたいのか全く読めず、恐る恐るになってしまった『殴る』というカテゴリーにはどうやっても属さないであろう攻撃を彼女の額にヒットさせる

一瞬の静寂、次第に空気は重く、彼女の肩は震えていく

「くぅぅもぉぉぉ〜〜〜!お前ぇぇぇごるぁぁ!!!!男だろうがぁぁぁ!!!」

ご近所の迷惑を一切無視したような、真夜中にそぐわない怒声

「殴るっつったら、こうだろうがぁぁぁ!!!!」

言うが早いか、後ろ足を踏みしめ腰で回転を付けギュンッッと突きを繰り出してくる

反射的に腕でガードをかけるも、この華奢な身体のどこにあるのかと言うくらい重い打撃

そのまま、腕を掴み引き倒す

軽い彼女は、いとも簡単に組敷けてしまった

腕に残る鈍い痛み、冷たい空気、喉が渇く・・・

無抵抗な彼女、先刻の非難の眼差し


ぱぁん

そのまま、顔にめがけて掌を振り下ろす


頭が・・・混乱する

軽い 柔らかい 壊れる すぐに・・壊れてしまう・・

喉が渇く、頭が・・痛い


ぱぁん ぱぁん ぱぁん

止まらない掌、まとまらない思考、定まらない視線

自動人形のように腕を振り続ける

    ざわり

そこでやっと自分の下にいるモノに目を向けると口端から流血を見るも、目は禍々しく笑う

目が合った途端、凄まじい殺気

    どくん

自分が変わるのが分かる、自分が自分に戻る感覚

殺気と共に自分に向かって放たれた、殺意のこもる一撃の気配

「ふふふ」

思わず出た笑み、自分を解放させたカマキリから目を離さずに、避(よ)ける

殺気と情動、組敷いた彼女が放つものは全て扇情的で

『まったく・・・卑しいなぁ』



激しい情事の後、事の顛末を彼女から聞き少し唖然とする

さすが、というか何と言うか、完璧主義者?ある意味超真面目??

いつもの饒舌さとハイテンションを取り戻した上機嫌の彼女を日本茶をすすりながら眺める

身振り手振りの話を半分聞き流しながら、正面を向いた彼女の顔を見る

赤く腫れた、切れた口端

ツラツラと続く自分への愚痴

『でも壊れなかったな〜あんなに叩いたのに』

そんなことを思いながら、気付いたら小さな顎に手をかけていた

見開かれる目

 クスリと内心微笑む



ああ、彼女は     頑丈だ

心も身体も、とても頑丈で、壊れない、決して



fin



−アトガキという名の反省文−
『滾欲』の蜘蛛サイド、蜘蛛目線のお話です
志賀っちが変身前に攻撃するのって、妻子殺害関連くらいかなぁと思って・・・
なにげにフラッシュバック?みたいな。思いっきり捏造ですねスンマセン
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