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気持ちの良い風が吹く 鳥の鳴き声、川のせせらぎ 足元の柔らかな萌黄色の草の感触を楽しむように裸足で数歩 自然と口元が綻ぶ 暖かな日差し、咲き誇る花々の薫香 フト自慢の黒髪の上をすべる感触 眩しそうに首をかしげ見上げる彼女の頭には、大きな手で器用に編まれた花冠 「志賀・・・」 呟く彼女の目線にまで降りてきた、男 志賀は人の良さそうな顔を更に満面の笑みで彩りながら横に座る 密着するでなく、かといって離れているわけでもない位置に座る彼は少し照れた様に笑う 「めぐみさんに、似合うと思って作り方を習ったんですよ」 習ったという件(くだり)で一瞬頭に浮かぶ、全盲の少女に少し眉をひそめると 彼女のそんな様子をも愛しいといわんばかりに、そっと背中に手を回す 「死織さんに、ですよ」 と、甘く微笑んで手に力を込める 肩にかかる大きな手、自分の華奢な体なんてスグに閉じ込められてしまいそうな大きな腕(かいな) 案の定、すぐに頭は彼の厚い胸板に摺り寄せられて、温かな檻に閉じ込められた 頭に響く鼓動、そのリズムと同じように言いよどむ事なくさらりと投げかれられた言葉 「愛しています・・・」 長い黒髪を愛しげに梳く大きな手、爽やかに吹き抜ける風 鳥の声、パステルの景色 *** 「うぅっ」 口から苦しげなうめき声 「う゛ぁぁぁぁああああらぁぁああ!!!!」 『なんだぁ!!!今の叫び声!!!!』 寝起きにもかかわらず臨戦態勢を取り飛び起きる 体を低く構え、相手の出方を探る・・・・が辺りに人の気配はない 『ひょっとして、今のアタシの声かぁ??』 フトその位置から伺える、姿見に映った自分の姿に若干動揺する 細身の美しい凶器を掴む自分の手に目を落とすと、小刻みに震えているのが分かる 無理矢理に呼吸を整え確認すると、嫌な汗で背中も額の前髪もベッタリと張り付いている 顔には憔悴がありありと浮かび、顔色も最悪だ 色白な方だが、白を通り越して青い、唇からも血の気は失せ、カチカチと歯の根は噛み合わない 冷静沈着な自分が取り乱すほどに夢見が悪かったのだろうか・・・ 全く覚えていない夢の内容に思いを馳せるも、激しい悪寒と喉の渇き、嘔吐感 胃から食道へとせり上がってくる感覚を押さえ付けつつも、生理的に浮かぶ涙に霞む眼前の時計へと目を移す 仕事の・・・時間が近い 浅く早かった呼吸が嘘の様に静まる 過呼吸気味で痺れていた指先にも力が戻り、自分の体が急速に制御を取り戻していく クローゼットからビロードの黒衣のドレスを取り出し身にまとう 気分が高揚する、鼻歌が自然と口からこぼれる 自慢の黒髪を高く結い上げリボンをあしらう、そのままクルリと軽快に回って姿見を見る 先ほどとは打って変わって、紅潮した頬、色づいた唇、大きな目も口も顔中で幸せを表すような、とろけるような笑顔 「久しぶりの1人での仕事、アタシだけの仕事・・・」 沸々と湧き上がる興奮をその手に足に凶器を宿らせ、駆け抜ける 丁寧に、丁寧に1人の生存者も残さぬように切り刻む 若干の返り血を受け口元に笑みが浮かぶ 動く気配にちらりと赤く燃える目を向けると、資材置き場に影 瞬時にターゲット人数を確認すると、なるほど2人足りない 腕の凶器を一振り、朱色の雫を払い、跳ぶ 「刈り残しかぁ〜、まっ更にお楽しみが続いたって事だ♪」 鎌が心地よい感触を伝え、歓喜に体が打ち震える 月明かりの元、累々と横たわる肉塊の間をまるでステップのようにすり抜け、組織の幼いTOPへ連絡する 滞りなく報告を済ませ、仕事の後の爽やかな疲労感と体の奥で黒く暗くゆらめく疼きを感じ足を家ではない方向へ向かわせる。 「こんな日は蜘蛛とイッパツ決めるしかねぇよな♪♪くぁ〜たまんねぇなぁ!オイっ」 「とりあえず、腹ごしらえにツナおにぎりと味噌煮込みうどんだろう?それにしても喉渇いたな〜、ビールも買ってくか!ほろ酔いFuck?いいねぇ〜〜」 コンビニを出た途端、ふわりと早咲きの桜の香りを運んで風が一陣 髪が舞い上がり苦笑する 程よい疲れと、これからの濃密な時間に思いを馳せ、一瞬脳裏をよぎる 今朝の夢見の悪さを追い出し、一度ブルリと体を震わせる 『今日は、ゆっくり寝れそうだなっ!』 もう何年も見ていない、遠い昔に感じたことがあるような恐ろしい感覚 そんな、ひどい悪夢 願わくば、もう二度と見ないように、見るならば赤と朱の滾(たぎ)る夢を・・・ |