|
そもそも、何が原因か 私の中に何があるのか 奴を、どうしたいのか ポーン 乾いた電子音。殺人の逆オークションの権利者を知らせるオト 「これで、7つ目か・・・」 最近、逆オークションに齧り付いて依頼を受けている。 呆れるほど、安値で。 以前は1円で落札するMr.AAの事を、馬鹿馬鹿しく思っていたけど、落札(おと)す事を目的としている今は、金額に対しての感覚が麻痺している ショッキングピンクのカーテンからは、柔らかい朝日が差し込む 「・・・もぉ、朝か」 一つ大きなあくびをして、のろのろと着ぐるみを脱ぎ捨てる 冷蔵庫の中から、缶コーヒーを取り出すと一気に飲み下す 空き缶を、生活感のないシンクの中に放り投げると、シンクの中に溜まっているビールの缶に混ざりガラっと崩れる鈍い音 適当に服を着て、コートを羽織る。 玄関を出ると、差し込んでいた朝日の柔らかさと裏腹の痛烈な冷気 「さむ〜っ」 ほうと白い息を吐き、縮こまろうとする細い指先を温める 見上げると、冬の日の見本のような高い高い空 「ちょっと、すげぇな、こりゃ」 空気を吸い込むと鼻の奥がツンとした、清廉で孤高な空気 いつものように、会社に到着する。 奴には珍しくこんなにも朝早くから出勤して不機嫌な気をまとい、投げて寄越される視線 そんな様子に微塵も気づかない振りをして給湯室に入る。 コーヒーサーバーの準備を漫然とこなし、辺りに、ふわりとコーヒーの香りが漂い始める 朝一番のコーヒーはこんなにいい香りなのになぁとぼんやり思う 何回も何回も繰り返し抽出して、絞られて捨てられる 最後には香りも味もなぁ〜んにもなくなって、捨てられる まるで誰かみてぇ 不意にドアが開き、現れるでかい男 不用意に心拍数が上がる。それを悟られないように、胡乱げな目をレンズの奥から寄越す 「マンティス、7件連続だなんて君らしくないんじゃないか?」 そうして、巻いてある頭の包帯に視線を落とし続ける 「しかも、全部ヘルプなしなんて」 盛大に、大袈裟にため息をつきながら答える 「別に、いいじゃねぇか。落札は安値出したもん勝ち、ヘルプの有無も自由だろ」 「オーナーや死織さんだって心配してるし、怪我してるんだったら小夜子さんに治して貰った方がいいんじゃないのか?」 ザワリと背中を何かが這う。いつもならここで怒鳴り散らすのだが、それでは意味がない いつもと同じでは意味がないんだ だって、それじゃ「イツモ」と同じ、お前の中では「イツモ」の「アタシ」 記憶の中に埋もれていく、「アタシ」の跡は残らない もっと怒ればいい、お前の殺人衝動、正気を保つ1本のラインそれが職業、殺し屋。 そのライン、アタシがぶった切ってやる ほら、苦しいだろ?アタシが憎いだろ? 殺しが大好きな卑しい闇の住人さ、表の仮面も被りにくくなってくる 妙な殺気が溢れ出してきそうだろ? どうせ、お前とアタシは何かで結ばれているわけじゃない 特別じゃない たまに一緒に狩をして交わる、獣同士だよ それ以上は、何も話さず、黙々とコーヒーを注いでいく 全てを大きなトレイに乗せ終わると、ドアに立ちはだかる男に冷たい一瞥 「どけよ」 何やら物言いたげな男の横を半ばすり抜けるようにして、給湯室を出る 追ってくる気配などない、追ってくるはずもない クッと喉に出る嘲笑(わらい)を噛み殺す 二人の間でドアが乾いた鈍い音で閉まる |