『罪罰B』

床に散らばる無数のガラスの欠片

吹き上がる血飛沫、凄惨な現場、雑な仕事

下から吹き上がる風に、冷たい雪が混ざる

高層マンション、21階

たった今まで温かい肉体であったソレが清廉な白で覆われる事は無い



さぞかし高級な皮革であったろう、ソファにギシリと腰掛け、テーブルの上に細身のヒールブーツに包まれた足を放り投げると、倒れたグラスがカチリと鳴る

ただ漫然と目の前に転がるシャンパンのボトルを爪でツイっとなぞり、キンっと弾いてみる

指先にあまり感覚がない

いつもなら湧き上がってくる愉悦すら、10件目を越えた辺りから麻痺している

何も感じない。気持ちが、右にも左にも動かない

体中に血の匂いが染み付いている

いつもなら、もっとスマートに殺れるはず

びゅおうと吹き込む風に、舌打ちを

額から、頬を伝い落ちる血も最早返り血なのか自らのものなのか

首に滴りを感じて、腕でぐいっと拭う。

いつの間にか覗く月光で、残されたガラスに自らの姿が映りこむ

拭う腕すらも血で濡れ、その白い首や頬を朱に染め上げている

パキッ

いつもなら、敏捷に反応できるのにと少し自嘲がこみ上げる

のろのろと立ち上がり表情の無い赤い瞳を音のする方へゆっくりと滑らせる

「クモ・・・」

随分久しぶりに、見たような気がする。月夜に輝く銀色

その姿が眩しく思わず眼を細める

そんな様子を見据えながら鼻歌を歌い、ひょいひょいと近づいてくる

手に感じるいつもよりも重い凶器をがしゃりと振るい、血飛沫を落とし緩慢な動作で肩に担ぐ

「・・・お前の獲物は残ってねぇよ」

答えない

「横取りしてるわけじゃねぇ、アタシが権利者だ、文句はないはずだろ」

一向に答えない

一歩一歩無言で近づいてくる

思わず手が震え、ごくりと喉が鳴る

「っっ!アタシは・・・」

「へぇ、今日は・・・よく喋るんだねぇ〜〜」

表情の変わらない、弓形月(ゆみなりづき)のような目

その奥に燃えるのは冷気を纏う怒りか

本能的な何かを察したのか、勝手に喉がひぅと音を発する

そもすれば、引きつりそうな口元をぐっと押さえつけて彼(か)の男を見る

仮面のような笑い顔を貼り付けた男は、ゆっくりと腕を上げ、目の前に掌を広げる

反射的に身体がびくりと跳ねる、そんな様子に目の前に翳された手に隠れた男は笑う

「どうしたの?蟷螂、ねぇ何故・・・」

ガシッと顎から頬をつかまれる、きっと酷い顔だ

掴む手はギリギリと加圧され、額が合わさるほどの至近距離

「なぜぇそんなに、怯・え・て・い・る・の?」

皮手袋から伝わるものは何も無い

仲間に向けられる疑念の感情も、体温すら

クスクスと漏れる笑い声に足が勝手に震える、怯えている?アタシが?

一度目を瞑る、瞼の奥は朱色。目を開ける、そこに広がる風景も男も、赤く歪む

細く息を整え、掴まれた手を払いのける

怒っている。そりゃそうだろう、アタシだって同じ事をされたら怒り狂う

どうする?ねぇクモ?アタシは何も喋らない。お前への気持ちなんて口にしない

「気にいらねぇなら、止(と)めりゃいい」

どうする?

「止めたいなら、病院送りにでもしちまえよ」

「ふむ、病院送りねぇ〜」

大袈裟に長い指を顎に添え、考え込むフリ

薄笑いを浮かべる顔を盗み見れば、数段も増した冷たい怒気

「ねぇ、マンティス。それってぼくにウッカリ殺されちゃっても文句は言えないよ?」

口調はふざけているものの、この殺気はあながち嘘でも無いらしい

「・・・なんだったら、本気で殺り合ったってかまわねぇよ」

アタシと本気で対峙してくれるなら、それでも



「プッ!はははっ、あははははは」

「やだなぁ、かまきり〜、それじゃ君を喜ばせちゃうんじゃない?無類の殺人好きさん」

徐々に、男の怒りがエスカレートしていくのを感じる

それに従って、自分の鼓動も早くなるのを実感する

誘いにのって・・・こない。足元がグラグラする

痛いほどの静寂に響く男の嘲笑う声

「どぉして僕が君の楽しみに付き合わないといけないの?喜ばせてどうするの?」

蓄積された疲労のせいか、この状況のせいなのか激しい眩暈に目の前が霞む

それでも、倒れるような真似はしたくない

そんな状況を楽しむように、わざとらしくパチンと指を鳴らす

依然として笑顔は張り付いたまま

「決めたよマンティス、君のお仕置き」

「・・・え?」

そんな生易しい言葉で片付けられるようなものではない、きっと

この薄ら寒い感覚は

「皆もすご〜っく迷惑してるし、ね」

「反省してもらうために、
             マンティス、
                    君を犯すことにするよ」



「――っぁ!・・・・なっ何をいま、 さ ら」

そうだ、今更だ、そんな事。これまで幾度となくお互いの身体を貪ってきた

殺気のこもる命のやりとりでしか感じない2匹のケダモノ

「いつも、君に肉体的にも精神的にも犯されてるような気がするし、ぼくが犯したことってなかったよ・ね?」

指を口元に沿えことりと首をかしげる


酷い脱力感、けっきょく・・・

堂々巡り、苦労しても考えても結局いつもと同じ、お前にしてみれば「イツモ」の「アタシ」

血の匂いに誘われてきたお前を、タダ待つ、タダそこに居るだけの、タダの雌ってわけか?

完全に自らを嘲笑う

途端に再び掴まれる頤(おとがい)

あぁ、もうどうでもいいよ。せいぜい手荒く扱って、傷が残るようにしてくれてもいい

いつまでもアタシに残る傷でもつけるがいいさ。顔なんていいかもな

でも、アタシも一つくらいお前に傷を残させてもらうから、もぉ・・・それで・・・いいや

考えるのも億劫になるほどの虚脱感、同時に感じる猛々しい殺気に身体が疼くのもまた事実

悔しさや怒り期待色々なものの入り混じる眼で怯まずに真直ぐに睨む



次の瞬間、強く抱きしめられ、放たれる言葉

  「愛してるよ、蟷螂」

体中が総毛立つ

いま、なんて言った?

頭が警鐘を打ち鳴らす、胃酸が逆流する

アイシテル?

目の前が歪む、せり上がる嘔吐感

「やっ、やめ・・・」

押しのけようとガタガタ震える腕をさらに抱き込む

「君だけを、ずっとミツメテキタンダ」

頭を殴られたような酷い頭痛、押さえ切れない嫌悪感

「よっくも、おま そんなこっ と」

生理的な涙のにじむ目で突き刺すように見やれば、涼しい顔

イツモと、全く変わらない、張り付いた笑顔

感情のこもらない、単なる台詞、弓形月が何の色も湛えずにこちらを見ている

感情の無い、空虚な笑顔

酷い、酷い酷いひどいひどいひどいひどいひどい なんて冷酷な男

続けられる甘言(アムリタ)、繰り返される戯言(ウソ)

絶望の淵へ沈んでいく思考、浮かび上がる術さえ見つけられない「悪魔だ・・・」



落とされる口付けは、額から頬、首筋へ

左手は器用に結い上げたリボンをはずし、髪を梳く

優しく髪に触れ、耳を手袋の感触が刺激する

生理的に身体を震わせれば、優しく抱きとめられ耳元に寄せられる唇

吐息を耳で感じ、ぞくりと肌が粟立つ

耳の輪郭を舌で辿られ、ぬるりと差し込まれる

ぴちゃぴちゃと響く水音に否が応でも身体が反応する

合わされた唇は思ったより柔らかくあくまでも優しく啄むように動く

熱い舌が歯列をなぞり、下唇を甘噛みする

その感触に誘われるように、舌を迎え入れれば、絡み合う舌と舌

「んっ、うふぅ」

お互いの舌で口腔の粘膜を貪り、熱い唾液を交換する、顎を伝う銀糸

鼻から抜けるような甘い声、辺りの血の匂いも手伝って、最近押さえていた情動が子宮を突き動かす

「やっやめ ほっほんきでい やだ」

快楽に飲み込まれそうになる自分をギリギリのところで律する

「どうして?恵、こんなにアイシテイルノニ」

張り付いた笑顔から、この唇から放たれる錆びた剃刀のような薄っぺらい言葉が自分を切り刻んでいくのが分かる

心を感情をズタズタにされていく、切れ味の鈍いソレはギチギチと食い込み傷が塞がらない

膝から崩れる身体を抱え上げられ、所々が血塗られたベッドへと運ばれる

表情の無い笑顔で優しく下ろされ、再びそっと耳打ちされる

「これからも、ずっとイッショニイテクレル?」

自分の声にならない悲鳴がとどまることなく頭に心に響く

見下ろす男は、聞こえてもいない悲鳴を飲み込むように口付けを深くしていった








−アトガキという名の反省文−
とうとう突入してしまいましたね
ぬるいエロにようこそw
それにしても陳腐な痛い話ですいません
志賀がどんどん鬼畜(精神的)になってくわ
もう少しお付き合いください。早目にUPできる予定です


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