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高く低く耳に届く風音に、ふと今まで忙しなく動いていた箸が止まる いつもなら生存競争の激しさを物語るようにあっという間に彼女の胃袋に収まってしまう高級な肉が鉄鍋の中で食べ頃を迎えている。 少し呆けたように窓の外を見つめる彼女の様子に、室内の面々も訝しげに顔を合わせる その視線に気づいたのか、彼女は一瞬聡い光を眼に宿らせるが、それも霧散しいつもの胡乱げな目つきで一同を見まわす。 「綾子、肉追加してくれよ!せっかくマンティスさんが買ってきた上等な肉なんだしよ。あっおいビールとってくれビール」 先日、悪夢のような日照りの日々は突然に終わりを告げた。 何があったのかは分からないが、志賀が強制的にヘルプに行った日から彼女の貪るような無茶な落札は止まった。 何かへそを曲げていたのか、志賀との間に何かあったのか、おそらく後者だろうが・・・とにかく機嫌の悪い彼女の続けていた逆ストライキのような状況は解決された。 そしてやっと、騒がしくも妙な連帯感のあるイツモノ空気が戻った。 何をどうして、彼女のご機嫌を取ったのか、志賀に聞いても曖昧に笑うだけ。きっと腰が砕けるほどご奉仕させられたに違いない。彼女には・・とてもじゃないが命がもったいなくて聞く気になれない。 何はともあれ楽しくも卑しい暗い夜がやっと来る事に、安堵と喜色が一同の面に浮かぶ。 いつも饒舌な彼女から言い訳も、説明も、詫び・・・は言わないだろうが、一切発せられないのが少し消化不良な気分だが、ほのぼのとスキヤキを囲むのも悪くはない。 大きな体躯をいつものように縮こめて、普段は口に出来ないような高級食材に目を輝かせてフーフーと熱を飛ばす志賀の姿に面々は感謝と激しかったであろう肉体労働に憐憫の眼差しを向ける 「あたっ!」 垂涎の表情で、肉を頬張った志賀が小さく呻きを漏らす。 良く見ると口端に若干の赤みを宿している どうやら、醤油が染みたようで「いてて」と言いながらも、もぐもぐと口を動かしている そんな様子に志賀の隣座る、対比で常よりも更に小さく見える小夜子が指先に暖かなオレンジ色の治癒の明かりを灯らせ上を見上げる 眼鏡越しにそのやり取りを眺める彼女は「ケッ!!」とイツモノヨウニ悪態をつきテーブルの上のオードブルを皿ごと掴みガツガツ頬張ってゆく 「あっ、小夜子さんいいですよ、これは」 「でも、痛いんでしょう?志賀さん」 横目で生ぬるい会話を聞きつつ、口のまわりをグイっと拭い新しいビールをプッシュっと開ける 飲み口に視線を落とし、少し何かを思い出すように逡巡するが考えもまた霧散したため、そのままあおるように琥珀色の液体を口腔へ流す 弾けるそれは単純に彼女の口を爽やかに流れ、ほろ苦さは更なる食欲を促す。その心地よさに思わず最後の一滴まで一気に飲み込み「ぷはぁぁぁ!!」と目をつぶり盛大に声を上げる。 そんな彼女の耳に先ほどの会話のやり取りの続きが入ってきた 「いや、志賀さん、痛いんなら直した方がいいですよ。口端だったら口を動かすだけでも痛いですし、治りにくいですから」 「ほんと、大丈夫ですから。もっと大きい傷の時はお願いするんで、その時はよろしくお願いしますね」 勢いでもう一本ビールを封切り口を付ける。 「それに、この傷は何故か自分で治したいんですよね〜自分でもよく分からないんですけど」 少し困ったように笑うその顔に 缶を口につけたまま動きは止まり、大きく目が見開かれる 「変な志賀さん」と見上げフフと笑い合う二人の光景も、和やかな食事も、何故か思いっきりむせてしまった眼鏡の彼女の喧騒もイツモ通りゆるやかに流れ、この後の仕事の闇がいかに深いかを暗に示しているかのようで 心が躍る 「今日はこれから、不倫馬鹿ップルのオシゴトかい?」 「マンティスさん!不倫ではないって何度言ったら分かるんですか!ご褒美なんです、良い子への」 腰に手をやり、メッっと人差し指を彼女の前に出し子供に言い聞かせるように話す ワタワタと顔を赤らめモンドがそんな死織の横から口を挟む 「しっ死織さん!どうします、今日のヘルプ・・・」 「そぉねぇ、マンティスさんどぉ?」 前に出した人差し指をそのまま顎にあて、コトリと小首をかしげ目の前の彼女に問いかける ふっと苦笑し、そのままふぁ〜あと大口を開けてあくびを一つ 「アタシは遠慮するよ、今日は帰って寝る、蜘蛛か綾子にでも頼んでくれよ」 「ん〜分かったわ、それじゃあ、またお願いね」 「おう」 既視感が彼女を包む 会は解散を告げ、それぞれの闇に向け足を進めていく そんな一同に向けて彼女は声をかける 「悪かったよ」 皆若干耳を疑い、彼女の顔を凝視するも、バツの悪そうな色は読み取れず、イツモノ自信満々の尊大な瞳のままニッと笑って黒衣を翻す いっそ清々しいその後ろ姿に「男らしい〜」と感嘆の声が上がったとか そんな見つめる一同の視線を背中に受けてスっと手を上げひらひらと振ってみせる 「じゃぁ。。。。またな」 彼女達が歩くのは茨の道か?否 否 甘美なる罪の道 自ら望んで歩くその道の先には暗く煌き道を指し示す灯台 脆い均衡の上に成り立つ罰の道 狭きに道に立ち、堕ちないように 背筋を伸ばし凛と立つ 『イツモとオナジでも、イツモのアタシとオマエでも きっと、全く変わらないわけじゃない』 |