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夕闇迫る中、静まりきれていない日中の暑さはじわじわと街を熱し続け、その纏わりつくような感覚もアタシを不快にさせる 公園の木陰に佇む、薄桃色のシャツとネイビーのフレアスカート その姿を捉え、一瞬歩みが鈍くなる感覚にとらわれる、がそれを振り切るように力強くねじ伏せ一歩を踏み込む カツッとヒールが高い音を鳴らし、その音に目線を上げた依頼人は、打ち合わせに来たアタシを見て少し驚いた表情を見せた。 「あの、今日は」 「アイツは来ない。今日は別件で出てる」 「そっ、そうですか…」 かぶせるように事務的に言ってやれば少し頬を染め、俯き加減に「ははは」と笑う 横目で様子を見ると、ぶった斬られた会話の糸口でも探しているのか、細い指がスカートの上で組んだり外したりを繰り返している 重い沈黙。 別にいつもなら沈黙が訪れることはない、手順を整えるため矢継ぎ早の質問、依頼人の出す条件とターゲットの素行、最低限の情報の確認は怠らないため、今この状態のように無駄な沈黙と依頼人の焦りなんて存在しない。 (アタシらしくもねぇ)自分の大人気ない態度に若干呆れ、自己嫌悪の苦い感情が浮上しかけた時、隣から声がかかった。 「あのぉ…」 口を開いた瞬間、その小さな声よりも盛大に自己主張するように鳴り響く音 「ひぁっ」と妙な声を上げ、真っ赤になって更に小さくなる様(さま)に溜め息がこぼれる 何ともマヌケ極まりない沈黙の継続に頭痛を覚えコメカミを押さえながら口を開いた。 「誰が殺されても、誰を殺しても腹は減るもんだ。飯でも食いながら打ち合わせだな、もちろんアンタの奢りで」 突然の提案に驚いたのか、だが名案だとでも思ったらしく、大袈裟なくらいコクコクと頷いている。 『わたしっ、いいお店知ってるんです!!』そう力説され、連れてこられたのはいわゆる隠れ家っぽい小洒落た店だった。 作りが半地下で客席は個室風、少し暗めの間接照明で落ち着いた雰囲気の店内 防音仕様なのか驚くほど人の声は聞こえない 時折、緩やかに流れるトーンを落としたBGMにまざり微かに笑い声が聞こえるくらいだ (へぇ〜、意外だな)席に着きメニューを目で追いつつも、随分と落ち着いた店選びに驚きを隠しきれず向かいを見やる。 メニューで目元しか見えないが、明らかにキョロキョロしている。テーブルの上の小物や個室の仕切りに使われている布を見ながら「可愛い」とか「すごい素敵」とか小さく感嘆の声を上げて、目を輝かせている (おいおいおいおいっ!そのリアクションはあれか、初めて来たのか、この店) すると悪びれる風でもなくニコニコと「一度来てみたかったんですよね、やっぱり素敵でした!待ち合わせ場所の近くでいいお店探しといて良かったです」嬉しそうに言う。 (わざわざ探したのか雰囲気のいい店を、ヤツのタメ…に) チリチリと不快感がはぜ始めるのをぐっと押さえ込みパタンとメニューを閉じる タイミングよく現れた店員が、おしぼりとお通しを持ってドリンクのオーダーを取りにきた。 「言うなりゃ、居酒屋みたいなもんだろ。料理は頭からケツまで全部、それと生大、アンタは?」 「え?えーと…わったしも同じものでいいです、はい」 一見すると無茶なオーダーだが、店員は静かに微笑みオーダーを通して行く。慇懃も無礼になったら台無しだ、なかなか行儀のいい客あしらいに(やっぱりいい店だな)と少し気分が上昇する。 テーブルに所狭しと並べられるのは、無国籍料理。創作料理ってやつだ。どれもこれも素材の力を感じさせる料理でうまい。ついついいつものように貪ったが、打ち合わせだったことを思い出し、箸を若干休め気味にスティックベジタブルの中からキュウリを摘みあげ、口へ放り込む。ボリガリゴリと大きな音を立て齧りながら「で?ブチ切れたストーカー様の大体の予想とかついてるのか?」と聞いてみる。 小エビとカブの冷製クリーム煮を口に運びながら、こちらを向く表情は若干途方に暮れた色を見せ、紙ナプキンで口元をぬぐいながら首を横へ振る。 「さっぱり分からないんです、一応警察に相談したあと、興信所にも頼んだんですが報告書は不明として帰ってきまして、その所員の方もまた・・・・」 「あんた、よくそんなブチ切れ野郎に素人を咬み合せたもんだ、そりゃ無謀だ」 被害者の5人というのは彼女の近しい人間の数で、どうやら被害者は更に拡大していそうだ(狩り甲斐があるな・・・)自然に浮かぶ残虐な笑み、力が入る指先に触れたジョッキの取っ手を握り、残りを呷るように飲み込んだ |