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満腹で店を出る あれだけの食材が収められているとは思えない小さい体 しかし、ヒールの高い、編み上げのレザーサンダルも、ぴったりとしたホットパンツも、彼女の纏う堂の入った風体によく似合い小柄さを感じさせない。 そもそも彼女の華奢さを引き立てる人間は、今ここにはいない。 さすがに空調の効いた店内から出るとむわっとした熱気を感じるが、それでも幾分涼しく軽い足取りで本日最初に待ち合わせた場所へ向かう。 夜の公園はさらに街の雑踏とは違い吹き抜ける風に秋の気配を感じさせる。 園内の池を渡る風がザザザと木々を揺らし、黒髪を撫でた時、声が掛けられた。 「しっ志賀さんとは、おっお、お付き合いされてるんですか?」 意を決したように、スカートを握り締め顔を真っ赤に染めながら、それでも真っ直ぐにこちらを見ている。 小さく舌打ちする(直球かよ、面倒くせぇ) 少し逡巡しゆっくりと振り向き、口角を上げて笑う。 「付き合ってねぇよ、ヤツとは仲間で同僚だ。まっ肉体関係ってのはあるがな」 ニヤリと笑って言ってやる。浮かびかけた喜色を塗り潰すように。 ぐっと下唇を噛み、俯いた姿を横目で見て、泣くかと思ったが意外にも食い下がってきた。 「付き合っている訳じゃないんならっ!わっ私にもチャンスはありますよね!」 「てめっ!」ギリと奥歯を噛み締める 「セセセ、セックスした事があるといっても…」 「けっ!ヤった事があるなんてレベルじゃねぇんだよ!!そらもぅ毎回毎回ぐっちゃぐっちゃのぬっるぬるで喘ぎまくりの、イきまくりよ!!!」 「なっ…ぐっちゃ…えっ?」 湯気が上がりそうなほど顔を染め上げ「あわわわ」と目を回す姿に少し溜飲が下る。 (駄目押しとくか。。。) 冷静な自分とムキになる自分が少し滑稽に思えたけど、これ以上しち面倒くせぇ問答を繰り返していくのも、全く無駄に思えるし、今日ここで別れて二度と会わないわけじゃない、まだ仕事は始まったばかりだ。 立場ってものを分からせとく必要があると思った 大きく溜息をつくと、体ごと振り向き腕を胸の前で尊大に組み見下ろすように無遠慮な視線を投げかける。 視線に若干の殺意を宿らせ、先ほどより低く響くように口を開く。 「いいかい、パンピーのお嬢さんよぉ、アタシらは殺し屋なんだ。アタシの手も奴の手も、いや手だけじゃねぇ、全身、、そぅ心に至るまで、殺した奴の血が滴ってんのさ。」 凍えそうな響きの言葉に、若干血色を失い微かに震える頭をガシっと掴み、逸らそうとする視線を至近距離で捕まえる。 狂人の気色ばむ赤い瞳を歪ませて、視線を合わせたままニヤリと笑む 「生ぬりぃ事・・・言ってんじゃねぇよ」 「っっ!」 手を離すと、膝から崩れるように座り込み肩で息を付きながらカタカタと震える両腕を抱きしめている 「なんなら、話してやろうか?アタシと奴との血にまみれた、おSEXの一部始終でも・・・」 「スト〜〜〜〜〜〜〜ップ!」 「!!??」 随分と間の抜けた制止の言葉に苛つくように振り向けば、人を食ったような偽善面のアイツ 「そんな話公然猥褻だよ?それに依頼人を脅しちゃダメでしょ。」 「しっ志賀・・・さん」と蹲ったまま驚いた表情を浮かべていたが、そのままハッとしたように何とも言えない表情になり俯いた。 そんな様子に、若干溜息をこぼし、ジロリとアタシを見つつ、声をかける。 「スイマセン!!大丈夫ですか?」と少し慌てたように、しゃがみ込む。 そんな様子に「チッ!」と舌打ちをしながら背中に問いかける 「ボスのお使いは済んだのかよ」 「ん?うん、とっても、とっても簡単で楽しいお使いだったよ」 そう言って振り向く瞳には一仕事終えた後の冥(くら)い炎が揺れて 奴から漂う仄かな血の匂いと陽炎のように揺らめく殺気の残像が情動を呼び起こす そんなアタシの様子には気付くわけもなく、「立てます?本当にすみません」と声をかけながら手を差し伸べ、ベンチへと連れ添って歩き出した 「で?今日は打ち合わせだったはずだけど、どんな感じの作戦を立てたの??」 奴らの姿が見えないように、ベンチの裏手の木にもたれ腕を組んで目をつむる。 「そりゃ、もぉアレしかないだろ?『カップル大作戦』だな」 わざと茶化して言う。実際それが一番手っ取り早い、襲いかかってきたところ叩く方が探し回るより労力の無駄も少ないだろう。今頃また頬を染めているんだろうとムカ付きがこみ上げるが、眉間にしわを刻み仕事に徹する 「そうだね、それが一番建設的かな」と志賀も頷く 「まぁ2〜3日一緒にうろついてりゃ、網にかかってくれんだろ。執着心とブチ切れ度合いは半端なさそうだしな」 「じゃあ、デート中とかはヘルプが付いてた方が安全だよね」 (デッデートとか言ってんじゃねぇぞ!!くぅぉぉらぁぁ!!)木霊する心の声を喉で止め「そうだな」とそっけなく肯定を返す。確かに時と場合によっちゃ、作戦中はヘルプが付いていた方がより確実だろう。 「夜に襲われてることが多そうだから、家に泊めてもらったりしても問題ないですか??」 「ええ、それは大丈夫です、こちらこそお願いしたいくらいです。怖い・・・ですから」 「ちょっ!待て待て待て待て!!泊まるってなんだよ、ソコまでやる必要・・・」 突拍子もない提案に、思わず二人の前に飛び出し抗議の声を上げる。 その剣幕に若干驚いた表情を見せた志賀が口を開く。「困らないでしょ、別に」 「なっ!!」そのあんまりな言いようにカッっと頭に血が昇る 志賀の向こうから居心地の悪そうな顔が覗く その顔を見て、クルリと踵を返す。 「マンティス、君も考えてよ」 「・に・・たらいいだろ・・・」 「えっ???」間抜けな顔をして志賀が聞き直す 「好きにしたらいいだろ!!!!!自分で決めろよ!!お前の落とした仕事だ、おデートがしたけりゃ、すりゃあいい!いちゃつきたけりゃいちゃつきゃいい。ヤリたけりゃヤラせていただけば?!!さぞかし素敵なデートプランでも考え付くんだろうよ」 自虐的な物言いで、自分を貶めてみるも空虚感は拭いきれない。 「君も一緒に決めなきゃ」ヤツは苦笑を浮かべながらアタシが一息つくのを待って言ってのけやがった。 心を占める屈辱感、怒りに震えるアタシに向かって更に続けた。 「だって、デートするのは君なんだから」 「はぁ!??????(何だよそれ、意味が分かんねぇよ!)」 じっと考えを読むように志賀を見る、苦笑を崩さない。後ろには俯き頬を染める依頼人 弾かれたように、カバンの中の資料を見直す 被害者のリストを見る、妹・親友・恋人・・・・ 「ウソだろ・・・」 恋人の欄に見つけられる名前は「サエコ」、どこからどう読んでも女の名前だ 「ちゃんと資料に目を通してなかったのかい?珍しい」 志賀の少し呆れた声が耳に届く 「ウソだろ!!!!おいっ!」 「嘘じゃないよ、彼女の恋人役、頼んだよマンティス」 「よっよろしくお願いします!!」と大げさに頭を下げている 脱力感からドカっとベンチに腰を下ろす。頬を撫でる風も、耳に届く夜虫の声も全てがうっとおしく感じ眉間を押さえて目を閉じた |